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(*noteからの転載) 鴎は海を越える(チーム代表・GM 並河 研)

オービックシーガルズが初の日本一に輝いた25年前の1997年1月3日。選手としてフィールドに立つことが許されなかった選手が一人いる。

池之上貴裕。関西学院大学出身。ポジションは、ディフェンスライン/オフェンスライン。

身体に恵まれた彼は、攻守両面のラインマンとして関西学院大学時代に大活躍し、チャック・ミルズ杯(学生年間最優秀選手)を獲得、鳴り物入りで私たちのチームに加入した。

加入後は、デイビッド・スタント ヘッドコーチ(現 慶應義塾大学アメリカンフットボール部ヘッドコーチ)の下で技術を磨き、ウエイトトレーニングを積み重ねて文字通り日本一のラインマンへと成長していった。

1994年のアサヒビールシルバースター戦で、3人のオフェンスラインからのブロックを押し返して中央プレーを止めた場面は、いまだに私の脳裏に強烈に焼きついている。

彼が次に目指したのは、ワールドリーグ(のちのNFLヨーロッパ)への参加。NFLの世界拡大戦略の一環としてイギリスやオランダ、ドイツなどで展開されたヨーロッパでのアメリカンフットボールのプロリーグだ。

後に緩和されるが、当時の日本のアメフト社会人リーグでは、プロ契約の経験が認められず、ワールドリーグへの参加は、日本国内での選手登録の権利を失うことを意味していた。

それでも彼は、海を越えた。

ワールドリーグは春がレギュラーシーズン。夏に帰国した彼は、練習には参加していたが、秋からの公式戦では選手登録が許されず、コーチとして帯同した。それゆえ日本選手権ライスボウルでは、東京ドームの3階席からスポッターとして参加したのである。

スポーツ競技をやる以上、日本一になりたい。プロになりたい。世界に挑戦したい。オリンピックに出たい。ワールドカップに出たい。そしてメダルを取りたい。優勝したい。

誰しもが思い、誰しもがその壁に跳ね返されていく。そして狭き門をくぐり抜けた最初の一人は、先達として語り継がれていく。私たち無責任な凡人は、彼らの軌跡に自らの夢を重ね、一喜一憂する。

「こんなにも心を揺さぶり、痛い想いをさせてくれたこの試練に感謝できる日を信じて、前に進みます」

2021年5月4日。NFLのIPPプログラムに日本人の代表として挑戦し、選出されなかった李 卓選手の言葉だ。

池之上貴裕選手以来、オービックシーガルズから海外挑戦をした選手は20名を超えたが、それぞれにどんなに心を揺さぶられ、どんなに痛い想いをしたのだろうか。

安部奈知、里見恒平、堀江信貴、鈴木孝昌、安東純貴、渡辺雄一、古谷拓也、木下典明…… 2017年の原 卓門までで26名。李 卓を加えると27名。そしてこれからカナダCFLに挑戦する山﨑丈路は、どんな想いを持って壁を越えるのだろう。

ラグビー日本代表の活躍、陸上短距離種目での勃興、日本人選手が誕生したNBA。体格差がモノを言ってきた競技でも日本人が活躍し始めている。

次はアメリカンフットボールだ。

正直言ってどれぐらいかかるか、関係者の私でも見当がつかない。100年かかるかもしれないし、無理かもしれない。本場のアメリカンフットボールの壁は、それほどにも高い。

それでも私たちは海を越え、挑戦することを続けたいと思う。

「心を揺さぶられ、痛い想いをする。この試練に感謝して前に進む」。これこそがアメリカンフットボールの真髄であり、矜持だからだ。

奇しくも池之上貴裕選手と李 卓選手は、同じ師デイビッド・スタントの教え子でもある。

海を越えた鴎たち

池之上貴裕
Ikenoue Takahiro
1996-1997 Rhein Fire(NFL EURO)
安部奈知
Abe Nachi
1997-1998, 2000 Scottish Claymores(NFL EURO)
里見恒平
Satomi Kohei
2000 Amsterdam Admirals(NFL EURO) / 2001 Scottish Claymores( NFL EURO) / 2002-2003 Hawaiian Islanders(AF2 USA) / 2004 Amsterdam Admirals(NFL EURO) / 2005 Cologne Centurions(NFL EURO) / 2006 Everett Hawks(AF2 USA)
堀江信貴
Horie Nobutaka
2001 Amsterdam Admirals(NFL EURO)
鈴木孝昌
Suzuki Takamasa
2002 Hawaiian Islanders(AF2 USA) / 2003 Bossier-Shreveport Battle Wings(AF2 USA) / 2004-2005 San Diego Riptide(AF2 USA)
安東純貴
Ando Sumitaka
2002 Rhein Fire(NFL EURO)/ 2004 Amsterdam Admirals(NFL EURO)
渡辺雄一
Watanabe Yuichi
2003 Albany Conquest(AF2 USA) / 2004 Lousiville Fire(AF2 USA) / 2005 NewYork Dragons(AFL USA)
古庄直樹
Kosho Naoki
2003 Albany Conquest(AF2 USA)
木村裕二
Kimura Yuji
2003 Florida Firecats(AF2 USA)
井上浩樹
Inoue Hiroki
2003 Hawaiian Islanders(AF2 USA)
古谷拓也
Furutani Takuya
2004 Lousiville Fire(AF2 USA) / 2005 Philadelphia Soul(AFL USA)
中村敏英
Nakamura Toshihide
2004 Memphis Xplorers(AF2 USA)
新生剛士
Shinjo Takeshi
2004 Memphis Xplorers(AF2 USA)
宮本 士
Miyamoto Tsukasa
2004 Wichita Stealth(AF2 USA)
前川春彦
Maekawa Haruhiko
2005 San Diego Riptide(AF2 USA)
白木周作
Shiraki Shusaku
2005 San Diego Riptide(AF2 USA)
清水 謙
Shimizu Ken
2005 Wilkes-Barre Scranton Pioneers(AF2 USA)
中西 類
Nakanishi Rui
2005 CentralValley Coyotes(AF2 USA) / 2007 Chicago Rush(AFL USA)
木下典明
Kinoshita Noriaki
2005-2007 Amsterdam Admirals(NFL EURO) / 2008 Atlanta Falcons(NFL)
萩山竜馬
Hagiyama Ryoma
2008 Amarillo Dusters(AF2 USA)
塚田昌克
Tsukada Masayoshi
2009 Kentucky Horsemen(AF2 USA)
三宅剛司
Miyake Takeshi
2009 Stockton Lightning(AF2 USA)
長谷川弘記
Hasegawa Hiroki
2009 Tennessee Valley Vipers(AF2 USA)
和久憲三
Waku Kenzo
2011 Columbus Lions(Southern Indoor Football League USA) / 2014 Tronto Raiders Northern Football Conference(CANADA)
池井勇輝
Ikei Yuki
2015 Berlin Adler(GFL Germany)
原 卓門
Hara Takuto
2017 Texas Revolution(CIF USA)
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